セッション【幼稚園からの脱出】
フルダイブTRPGゲームへようこそ!
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『ゲームを開始しますか?』
「はい、始めます」
今、俺は自宅でフルダイブ型のゲームを開始しようとしていた。
フルダイブ型のゲームとは言っても流行しているオンラインのゲームではない。
人ではなく機械によって進行するTRPGのようなゲームだ。
これまではある程度人を集める必要があったTRPGの問題点を解消しつつ、実際に体験できる画期的なゲームなのだ。
『プレイヤーキャラークターを作成します。ダイスを1d2 ,1d15最低値0で振ってください』
「性別と年齢か?ダイスロール!」
いつの間にか出現していた2面ダイス(コイン)と15面ダイスを振る。
「結果は2面ダイスが1、15面ダイスが0です」
15面が最低値を引いてしまった…この場合いったいどうなるのだ?
『あなたの性別は女、年齢は3歳となります』
「ゲーム進行不可になりそうなので振り直しをしたいのですが…」
どう考えても事故だろう…通常ならキャラクターを作り直す場面だ。
『実施可能なセッションを検索中…見つかりました。セッション【幼稚園からの脱出】を開始します。よろしいですか?(Y/N)』
クリアできるものを選んでくれたのか?名前は気になるが…
「はい、始めます」
返事をした瞬間、意識は暗転した。
周囲が騒がしい。目を開けると積み木遊びをする幼稚園児の姿が目に入った。場所は遊戯室のようで小さな子が好きそうなアニメのキャラクターのおもちゃや、おままごとに使うであろうお人形が置かれている。
妙な気恥ずかしさを感じる。
おもちゃの鏡で自分の姿を確認すると姿は変わっていた。上下一体型のワンピースの上に幼稚園の女の子用ギャザースモックをかぶっている。身長はわからないが、周囲の子を見上げている点からかなり低いほうだろう。胸こそないが、その体つきは確かに女性だった。
正直…違和感がすごい。早く脱出しなければ…
「アリスちゃん?おままごとしようよ!」
近くの少年が無邪気に話しかけてくる。どうやら自分の名前はアリスになったようだ。
ここは探索をしないといけないので断らなければならない。
「あのね、アリスね、お外に探検に行きたいのっ!」
意識としてもっとはっきり伝えようとしたが、出てきたのは少女らしい舌足らずな話し方であった。
口調まで強制されているのか…TRPGではプレイヤーキャラになりきらなくてはならないのでその措置だろう。
「遊びたくないの…?っヒック…うえええええん」
「こら!何しているの!」
少年は断られたショックで泣き出してしまった。声を聞きつけた先生が駆けつける。
「アリスちゃん、だめじゃないケント君泣かせちゃ…メッよ」
いきなり先生に叱られてしまった。なんとか逃げ出すタイミングをうかがっていると
『NPCに不快な感情を与えたため、ペナルティが発生しました。ペナルティを決定します。ダイスロール結果は1…年齢-1です。』
その瞬間、ただでさえ低かった身長がさらに小さくなっていく。足元がおぼつかなくなり立っているのも精いっぱいだ。
ここで逃げて追加ペナルティをもらっては逃げられなくなる…おとなしく遊ぶしかないか。
「僕はお父さん役!ミカちゃんはお母さん役、アリスちゃんは…小さいし赤ちゃん役で!」
正直、文句しかなかったがここで逆らってはどうなるのかわからないのでおとなしくしておく。
寝転がって赤子のように足を開く。
「アリスちゃん、ミルクの時間よ」
空の哺乳瓶のおもちゃを口に押し込まれる。吐き出そうとしたが、少年に押さえつけられてしまう。少女の肉体は弱弱しく、男の子の力には逆らえない。
嫌悪感はあるが…同時に安心感に襲われる。体から力が抜ける。
気が付けば夢中になって哺乳瓶にしゃぶりついていた
「ちゅば…ちゅぱ…」
自分が異常な行動をしていることはわかっているのだが抗えない
「せんせー!アリスちゃんがおもらししていますー!」
その声で我に返る。自分は今何を考えていた。本当に自分が赤ちゃんになったような…。
「あーアリスちゃん、だめだよ。ちゃんとおしっこしたいときはトイレって言わないと」
「アリス漏らしてなんかないもん!」
恥ずかしさから、反射的に否定してしまったが本当はわかっている…下半身が冷たい。男の感覚ではまだ余裕で我慢できる段階だったのに…
『NPCに不快な感情を与えたため、ペナルティが発生しました。ペナルティを決定します。ダイスロール結果は3…元の記憶の制限です。』
「アリスちゃんトイレのやり方わかる?」
「わかるもん!えっと…えっとね…」
言葉に詰まってしまう。知っているはずなのに頭に靄がかかったようで言葉が続かない。自分が男として学んだ記憶・知識を考えると途端に思い出せなくなる。
自分の元の名前が思い出せない…自分はアリス?…知っているはずなのに…
「アリスちゃんにはパンツは早かったみたいね。大丈夫よ、ちゃんとオムツも用意してあるの」
先生が持ってきたのは女の子向けのアニメキャラクターが描かれたオムツであった。
アリスの持つ知識であっても幼稚園でオムツを着用することは恥ずかしいことだとわかった。
「いや!いやなの!」
これをつけられたら本当に戻れなくなる気がする。必死で抵抗しないと。
「だーめ。ほかの子にも迷惑かけちゃうでしょ」
『NPCに不快な感情を与えたため、ペナルティが発生しました。ペナルティを決定します。ダイスロール結果は4…趣味・思考の変化です。』
無慈悲な宣告が下された。
自分の自我が、何か大切なものが音を立てて削られるのを感じる。
もうやめてくれ…
「ほら、できたわよ。みんな大好きヒーローラブキュアーのデザインなのよ」
「かわいいー」「いいなー」
自分の下腹部には、自分も大好きなラブキュアーのデザインがあった。恥ずかしいといった感情はあったが…なんだか誇らしくなっていた。
「さあ、お外で遊んできなさい」
一斉に全員で外に駆け出す。さっき探索しようとした際には何ともなかった外が未知の物であふれていた
どれから遊ぼうかな…
アリスの思考はもうそれだけであった。
1年後
「ミルクの時間ですよー」
自分は先生の腕の中にいた。あれから何度かペナルティを受け0歳になり、言葉もしゃべれなくなった。
正真正銘の赤ちゃんになっていた。
「ううん…」
自分の意志は残っているが…消えるのも時間の問題だろう。
もう元の自分を思い出せないし、何よりこの場所が最高だと感じるようになってしまった。
抜け出す気力がわかないし、ベビーベッドから向けだす方法も考えられない。
言葉も話せないので緊急用のコマンドも唱えられない…自分の力の全てを奪われた場面。
普通なら絶望する場面であるが…
アリスは幸福だった。