親愛なる

親友だと思っていたらいつの間にか恋人になっていたお話
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十二月、大学生達は浮かれていた。
無理もないだろう。論文が終わり、内定も決定済。社会の歯車に組み込まれる直前のボーナスタイム。
パリピたちは最後の自由を謳歌していた。親しいものたちでグループを作り、飲み屋を梯子する毎日。

ほとんどの者はそうだ。だが、何事にも例外は存在する。

「今日どこ行くよ?今日は××女子大の子も参加するから女子大に近い所で考えているけど」
「そうだなぁ…ん?」

思案する男の後ろには女子。真顔であった。無言のままに男の服を引く。静かなる圧力。

「あ~…今日ごめん。俺はパス」
「さりげない彼女自慢やめろ。で、もうやることやったのか?」
「こいつとはそういうのじゃないから」

二人は恋人と認識されていた。入学当初からお互いにべったり。いつも一緒に行動していたのだから当然のことだろう。
なぜかお互いに否定しては周囲を困惑されていたが、それを信じる人はいない。

「帰るか」
「…うん」

しおらしく返事する少女。その可愛らしさはまさに理想の彼女。


二人は寄り沿って歩いた。男が家の玄関の鍵を開けて部屋に入る。
そして玄関の鍵を閉めた。その次の瞬間のことである。

「あ~~~~~くっそ疲れた~」

直前までの清楚で可愛らしい佇まいはどこへやら。服が皺になることも、髪が乱れることも気にしないでベッドに寝転がる。
それはあまりに女子らしくない行動。

「じゃ、俺はちょっとパソコンで作業しているから」
「りょーかい~」

男はそんな女にも目もくれず、キーボードをたたき始める。
まるで興味がない振舞い。キーボードの打鍵音だけが部屋に響く。

「はらへった~。なんか作っていい?」
「食材はあるけど…料理できんの?」
「母に叩き込まれたよ。女は料理ができないといけないってさ」
「…すまん。俺のせいか」
「いいって。お前が謝る事じゃないよ」

高校を卒業式を終えた後、バイクで走りだした。
やんちゃしていた。兄貴のバイクを盗んで、親友の背中につかまって走った。お互いに笑った。

目的地のない旅の先でたどり着いたのは、小さな丘。
そこで俺たちは星を見上げ…空からこぼれ落ちた光に飲み込まれた。

気が付いた時には、生まれながらの女になっていた。

「肉ばっかじゃねーか。それもホルモン…」
「…だめか?」
「男の時は好きだったけどな。今は体が受け付けないんだよ」

覚えているのは親友だけ。誰からも男として扱われない毎日。
家でも気は休まらない。女らしい振舞から外れてしまえば異常者扱い。
親友の家の中だけが、自分を開放できる時間。

心地いい時間。
彼女扱いされるのは不服だが、自分が自分らしく振舞える。
親友の家に入り浸るようになるのに時間はかからなかった。

「…あの」
「なんだよ」
「当たっているのですが」
「ばーか。当てているんだよ」

ディスプレイに向かう彼の背中から抱き着く。
サービスのつもりだった。思い返せば親友に甘えっぱなしだった。
偶にはサービスも必要だろう。

しかし彼は反応しなかった。
なぜか無性に腹が立った。

「折角の美少女の胸だぞ。嬉しくないのかよ」
「うれしい」
「えっ…」
「めちゃめちゃに嬉しい」
「そっ…そうか…それは良かった…」

彼を喜ばせようとしたはずだったのに、気が付いた時には喜ばせられていた。
これは口先だけの言葉とわかっている。
しかし感じる胸の高鳴り、そしてトキメキ。
沸き上がる羞恥心と妄想。

「何やってるの」
「…………すー………はー……」
「まぁいいけど」

今の顔を見せられる気がしなかった。そして彼の顔を直視できる気がしなかった。
だから、彼の胸に顔を埋めた。衝動的な非合理的な行動。

彼の匂いが胸いっぱいに満たされる。心が安らぐのを感じる。
脳が発する危険信号。『これ以上吸ったら依存するぞ』と。
それでも、顔が離れることはなかった。


「なぁ」
「~~~♪」
「いや、なんでもない」

一人用の小さな浴槽に二人で入る。当然のことだが肌と肌が密着する。
無防備な体の女は嬉しそう。

気が付いた時には手遅れだった。
価値観が一気に変わってしまった。脳髄の奥まで男の匂いがこびりついてしまってしまったのを感じる。

同じ空間にいるだけで嬉しさが止まらない。頭がフットーしそうになる。

「見えるのですが」
「ん?お前なら見てもいいぞ♪」
「……………」

華奢な女の体が持ち上げられ、向きを変えられる。そして、抱きしめた。

「えっ……」
「こうしたら見えない」
「………ばか」

こいつはいつもそうだ。喜ばせてやろうとするたびに、こっちが喜ばせられてしまう。
誰よりも俺を理解している人。俺がどうされたら嬉しいのかこいつは理解している。

「ふふっ…」
「何か?」
「いや何…そんな涼しい顔しておいて、お前も緊張しているんだなってわかったからさ」
「……っ」

お互いの鼓動が聞こえる距離。彼の心臓は昂っていた。
今ならわかる。こいつは俺を意識している。
この鼓動は自分が感じているものと同じものだと確信できる。

「不安だったんだ。お前が俺のことを嫌いになったんじゃないかって」
「…………」
「気付いているんだろう?俺がお前に好意を抱いてしまっているって」
「ああ」
「いろいろあざといことして悪かった。ただ、お前と離れたくなかっただけなんだ」

親友がバイクを止めた場所で隕石に当たってしまった。
そのことを後ろめたく思っていた親友は、俺の頼みを断ることはなかった。その優しさに甘え続けた。
内心では嫌がっているのでなないかとずっと考えていた。

「なぁ、今日は泊めてくれないか」
「それは…」
「別に取って食いやしないさ。家事洗濯とか代わりにやるからさ」

気が付けば俺達は惹かれ合っていた。元男だとかお互いにどうでもよくなっていた。

もしかしたらずっと前からそうだったのかもしれない。
そのたがが外れようとしていた。


我ながら変わったと思う。

目前にあるのは女の子らしい服。親友に見せるために自分の意志で購入した服。
彼の好みの服。

「………」
「なんだ。見惚れたか?」
「ああ。似合っている」
「へへっ…」

胡坐をかいて座っていた彼。その膝の上に座る。
黙って抱きしめられた。

「重いか?」
「全然」

交わす言葉は少ない。でも、同じ気持ちだと確信できた。
お互いに同じ体温のはずなのに、とても暖かくなる。心がポカポカする。
力が抜ける。体を彼に預ける。
不安はなかった。

「胸…触っていいか?」
「ばーか…。俺じゃなきゃ許されねぇからな…」

答えは決まっていた。
彼の手に体を優しく刺激される。不思議な感覚に溶かされてしまう。
夢見心地。彼に包まれている感覚。

「んっ…」
「大丈夫?」
「大丈夫。続けてくれ…」

ピリッとした刺激。
女の体になったときに自分の体を弄ってみたりした。しかし痛いばかりだった。AVで胸揉まれて喜ぶ描写は嘘だったと思っていた。
今ならわかる。これは…幸せ。
気持ち良いというよりかは、幸福を叩き込まれているような感覚。
こんなの覚えてしまったら、もう…。

「ありがとう…」
「……………」

もっと彼に感謝の言葉を伝えたい。でも、心地よすぎる。
幸せの海に沈められてしまった。もう自分は戻れない。
このまま沈んでしまう。

「すー…すー…」
「………」

男の腕の中で柔らかな寝息を立てる少女。
その表情はどこか嬉しそうだ。


夜。ベッドの上。
こんなに緊張したのは一体いつぶりだろうか。

「なぁ…抱いてほしい」
「本当に…いいのか?」
「女に言わせる気かよ。まぁいいけど…」

服を脱ぐ。湿った下着を床に落とす。
隠さなかった。ピンと立った乳首、湿った陰核、蕩けた顔。
ベッドに横になる。自然と足を広げていた。

「お前のことが好きだ。お前のことを愛しているし、愛されたい」
「……」
「女の体になってからお前に優しくされる度に…どんどん好きになった。気が付いた時にはお前のことしか考えられなくなっていた」
「………」
「お願いだ。もうこの気持ちを止められない。心がお前の女になりたいって叫んでいるんだ…」

返事はなかった。ただ黙って彼は服を脱いでいた。
勃起した性器を割れ目に当てた状態で顔を耳元に近づける。

「好きだ」
「~~~~~~~!」
「愛している」
「~~~~っ。それは卑怯だろう…」

お互いに顔を近づけて接吻。そのまま繋がり合う。
噛み合わなかった歯車が噛み合っていくような気がする。きっとこの世界ではこうするのが正しかったのだろう。

両手両足て彼の体をホールドする。もう離す気はなかった。
このまま彼に支配されてしまいたい。

「っっ!」
「限界か?いいよ…」

射精された。まんざらでもない気分だ。
お腹の奥が染め上げられた。なんだか彼のものになれた気がした。

「もう離さないからな」
「………」
「お…まだ射精したいか?いいぞ…」

彼の愛を受け止める。
二人だけの時間。二人だけの世界。
体力が尽きるまで盛りあっていた。

二人で一緒に寝た。
過去最高に安心して眠れた気がした。


サラリーマンは我が家に帰宅する。

「ただいま」
「おかえり。お仕事お疲れ様」

出迎えたのはエプロン姿の妻。かつての親友の姿。
笑顔で旦那を迎え入れた。

「今日は和食の気分だろ。用意してあるぜ」
「………」
「え、なんでわかるのかって?ばーか、何年夫婦やっているんだよ」

愛しあった夜から五年が経過していた。今じゃすっかりおしどり夫婦なんて言われたりしている。

「仕事で疲れているんだな。わかった、今夜はたーっぷり甘えさせてやるからな」
「………」
「気にするなよ。好きでやっていることだからな」

学生時代は旦那に甘えてばかりだった。でも今は旦那を甘やかすことが嬉しく感じる。
愛し合った次の日には母性が芽生えていた。彼に献身したくて仕方がなかった。

「パパー!おかえりー!」
「ただいま」

リビングから走ってきたのは娘。お腹を痛めて産んだ可愛い可愛い娘。
一発で妊娠して、そのまま出産した二人の子供。
幸せな家庭がそこにはあった。

「二人目も頑張るからな。へへっ」

俺は変わってしまった。旦那にメロメロになってしまった。
でも、それでいいと思った。